拾遺詩篇
里行
LI Hang
池
その夜は遅くまで
暗い明かりの下で話し続けた
過ぎて来た高原を 長く続く山すそを
越えて来た山々を あの奇跡のようなひとつの池を
明日になれば下山し また日常がはじまる 追憶は
都市の微塵の中に消え行くだろう
それでもなお
一条の
消え得ぬものが
見果てぬ先を
彩っていた
今年
もはや一世代を超えたのちに ふたたび
その蒼い池をめざそうと その宿の
かつてはなかった売店に立ち止まると
窓辺に
はなやかに 山の
つかの間の 夏花が
広がっていた
愛する人よ
時は
時は今となって現われ
対となって現われ
おまえへのことばを
ただそれだけを
ただそれだけを受けるために
ひたすらに
ひたすらに待っていたのか
Tokyo September 1, 2000
Tokyo November 6, 2022 Revised